語学ファンの間で話題沸騰中の

『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話』

をようやく読めて大変満足している。

タイトル通りのエッセイというか自伝で、諸々の事情あってほとんど自室から出られない著者が
ルーマニア語、ルーマニア文学と出会い、独自の試行錯誤を繰り返してルーマニア語を磨き、
ルーマニア語で書いた小説がルーマニア本国で出版されるに至るまでを赤裸々に描いた本である。

本職も語学ファンなので、共感したり嫉妬しながら楽しく読んだのであるが、
人によって受ける印象が大きく異なる作品だろうなと思った。

ストレートに読むなら、何か熱中できるものに出会ってそこに邁進し、試行錯誤したり、
魅力ある友人や師匠らに助けられながら大きなことを成し遂げるアツいサクセスストーリー
ということにもなるだろうし、
著者のルーマニア愛に心地よく圧倒されることのできるエッセイ、とも読めるだろう。
話や文章の上手い「ガチ勢」が幸せそうに演説するのを聞いていると、
聞いている側も幸せな気分になるというアレである。

ともかく、全編通じてアツく、エネルギーに溢れる若者には共鳴するものがあると思う。
これからスペイン語を一から学ぶ一年生も、一年間さんざんゴン詰めされた上級生たちも、
共感したり焚きつけられるような感覚が得られると思うので、ぜひぜひ読んでいただきたい一冊。
後、スペイン語履修者特典として、作中に出てくるルーマニア語が結構わかる、というのがあるな。
ルーマニア語とスペイン語はラテン語から枝分かれした姉妹語なのでこういうことになります。

さて、やたらと名言の多い本書であるが、個人的白眉は、

 語学は素晴らしき趣味だよな。世間では語学っていうのは外国の人とコミュニケーションをとったり、日本語では学べないことを学んだりという目的のための手段として扱われている。
 でも俺にとっては語学こそが目的なんだ。何か別のものに繋がるならそれはそれで面白いけど、
俺としては特にそういうのは求めていない。

 新しい言語を学ぶことそれ自体が楽しいんだ!

pp33-34

というくだりである。
思い出してみれば、本職も似たような思いでスペイン語を勉強していたのであった。
単純に、音読したり、シャドーイングしたり、教科書の例文を片っ端から暗記したり
独自単語帳・例文集を作ったり、辞書を引きまくりながら原書と格闘すること自体が
とても楽しかったのだということを鮮明に思い出せた。

なんでこんなに大事なことを忘れていたのかというと、まあ、職業病ということになろう。
「スペイン語の先生」をやっていると学生の皆様に興味を持ってほしいので、

  • スペイン語を話せると多くの人と話せてよい
  • スペイン語を勉強するとイタリア語やフランス語やルーマニア語もなんとなくわかってよい
  • スペイン語を話せるとサッカーを見に行くのに便利

というような、「スペイン語を学ぶメリット」をとりあえず語りがちである。
問題はとりあえずで言っていた安直なあれこれを、
なんとなくそれが自分の本心なのだと思い込むようになっていたことであろう。
単に、「スペイン語、面白いから愉快にやろうや」でよかったところを、
あれこれとってつけた理屈をこねくり回し過ぎていたなとちょっと反省。

確かに上記の「メリット」は間違いではないし、なんならそれ以上のメリットは山ほどある。
ある程度以上の語学能力は本当に実利に直結するし、愉快な経験を得るための入場券になる。
これは事実なのだが、本職の場合、それがスペイン語にのめりこんだ理由ではないのよね。
シンプルに、スペイン語が少しずつ上達すること自体が楽しく、心地よかったのだなと。

こういう言葉との付き合い方は、じこまんと言われればそうだと思うし、
昨今流行りの「自分の機嫌は自分でとる」という姿勢でもあるっちゃあるように思う。

ルーマニア語のエッセイではあるが、個人的なスペイン語の魅力を再発見させてくれたこと、
著者の済東先生にはこの点について、一番お礼を言いたい所存。

繰り返しになるが、言葉を学ぶ楽しさをここまで鮮やかに語っている本ってそうはないと思う。
そんなわけで、特に「語学あんまり好きじゃないんすよね層」にお勧めしたい一冊。
一冊の本がきっかけで、これまでの価値観がガラッと変わるというのはよくあることですし。

By qsupe

2 thoughts on “千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話”
  1. 半年前からスペイン語をセルバンテスで学び始めた初老のものです。
    練習問題を探している際、こちらのサイトにたどり着き、そこからブログを
    遡って読むようになりました。
    臨場感あふれる記事はどれも大変面白く、スペインにはまだ行ったことがないのですが
    バスクの記事を読み、すぐに行ってみたくなりました。
    私はこちらの記事のようにまさに今、勉強するのが楽しいフェーズにはいっており
    寝ても覚めてもスペイン語漬けの日々を送っています。
    ブログの更新も楽しみにしています!

    1. 暖かいお言葉、とてもとてもありがたく存じます。
      このページは単に、スペイン語学習とスペイン語圏への旅が好きでやっている部分が強いので、
      そうおっしゃっていただけるのは本当にうれしいです。
      今後ともよろしくお願いいたします。

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