ser/irの活用に出てくる fui はどこ由来の単語なんですか?

とのご質問をいただいた。

本職、スペイン語を勉強し始めて今年で 21 年目。
ser/ir の点過去は fui, fuiste, fue… ということに慣れ過ぎていたが、
確かに、ピカピカの一年生だった頃に同様の疑問を抱いた記憶がある。

さて、こういう語源に関する疑問が生じた時の初手であるが、
上田博人先生著『スペイン語文法ハンドブック』を開いてみるのがよいと思う。
国内外に優れたスペイン語の文法書はたくさんあるが、
語源に関する説明の充実ぶりは屈指である。
本学の図書館にも一冊入れてもらっているので、一度は手に取ってみてほしい。

実際に、この名著の p189 にはご質問の点についての解説が載っている。
かいつまむと以下の通りになろう。

  • スペイン語の ser の活用の多くはラテン語の ESSE に由来する
  • ESSE の完了形は fui, fuisti, fuit… であり、これが ser の点過去形の前身となった
  • ir の点過去もこの形を取り入れたのは、ir に語幹がないため、別の動詞から形を補充する必要があったからではないかと推測される

これで回答になってると思うがいかがだろうか。
三点目について補足をすると、ir は「短すぎる動詞」ということである。
語幹というのは、-ar, -er, -ir の語尾の前にある要素である。
Hablar なら habl-、vivir なら viv- 。
そして自明であるように、ir には語幹がない。
動詞の活用とは、語幹に活用語尾をつけることだが、ir にはそれがないため、
現在形なら voy, vas, va 、点過去なら fui, fuiste, fue… と特殊な形になりがちとなる、というわけである。
ラテン語の IRE という動詞の完了形は ii, isti, iit と無理やり規則活用をしていたが、スペイン語はこれを嫌い、意味の似た ser の過去形を ir の過去形としても設定したと。
ちなみに、voy, vas… のir の現在形はラテン語の vadere (行く、歩く)から形をとったものらしい。

さらに、物事を掘り下げる人であれば、

じゃあ、ラテン語の ESSE の完了形の FUI, FUISTI, FUIT… というのはどこから来たのか?

と思うかもしれない。これは、本職の調べたところ、
印欧祖語の bhuh- という形に由来するらしい。
「なる」という意味の動詞系の形式だそうな。
印欧祖語というのは、インドからヨーロッパあたりの言語の共通の祖先として想定されている言語であり、実際に使用されていたのは六千年前とも九千年前ともいわれている。
ラテン語の ESSE という動詞も、これはこれで短い動詞なので、別の似た意味の動詞から形を拝借したということのようである。


By qsupe

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